子ども文庫助成事業・文庫のひろば

子どもの読書啓発活動応援
―――継続は力なり

藤本朝巳(絵本学会理事、学校法人平和学園学園長)

 私は伊藤忠記念財団「子ども文庫助成事業」の選考委員を、松岡享子先生のご指導の下、2007年より3年間、さらに2009年から3年間、選考委員長を務めさせていただきました。

 現在、子ども文庫助成には、①子どもの本購入費助成、②病院・施設子ども読書活動費助成、③子どもの本100冊助成、④子ども文庫功労賞の4つのプログラムがあります。当時も毎年、多くのご応募があり、すべての文庫、団体の活動状況を見ながら選考させていただきました。選考のために記念財団の職員さんたちは毎年全国各地を訪ね歩いて、ていねいに対応されていたことが深く心に残っています。
 また選考の過程を通して、病院・施設などで文庫活動の支援をなさっておられる方々の貴重なお働きを知り、さらに海外でさまざまな困難の中、文庫の支援をされておられる方々のご活動を知り、頭の下がる思いで選考をいたしました。文庫功労に関して言えば、40年以上も活動をされている方もあり、その年月に驚かされました。ぜひこれらの助成事業を続けてください。その継続が子どもたちを育てる力になります。  

 もう30年以上も前の話ですが、私はアメリカに留学し、オレゴン州ポートランド市で地域の方々の子どもの本の活動を見ていて、身体を育てるのは食べものですが、信頼する心や想像する力を育てるのは言葉や物語であることを実感しました。その時、種々問題のあるアメリカ社会の中で、親の薬害や深刻な病のために辛い思いをしている、近所のお子さんたちを日々預かって読み聞かせしている若い父親、母親に出会いました。彼らの本を通しての働きに学ぶことがたくさんありました。大人と子どもの間にあって、両者の架け橋になるのが絵本や物語であるということも、その時知りました。そこで帰国後、児童文学をきちんと学ぼうと思うようになったのでした。

 帰国後、私は自分の子どもたちが通っていた幼稚園で保護者の一人として読み聞かせ活動を始めました。3人の子どもが在籍している間でしたので10年近く通っていたと思います。子どもさんたちの読んでもらっている時の目の輝きに励まされました。私の3人の子どもたちはすでに成人しています。3人とも子育てには苦労しましたが、それぞれ教育関係の職に就き、また学びを続けています。幼い時にたくさんの物語を読んでもらったことは、彼らが将来の方向を決めるのに大変役に立ったと思っています。

 私は大学で20年間、児童文学と伝承文学を講じました。日々、自分がきちんと読んでいないと講義ができませんので、世界中の児童文学や昔話を数多く読みました。それは楽しい時間でした。さらに語学ができないと外国の話は読めないので、自ら翻訳もするようになりました。幼い子ども、若い方々と本を通して心が通じ合えることはなによりの幸せでした。
 
 伊藤忠の「電子図書普及事業」の、障害のあるお子さんのために開発された「わいわい文庫」のことを知ってからは、大学でも学生と一緒に地域の小学校に行って、その電子図書を活用しました。現在、私は茅ヶ崎にある幼小中高の学園長として「わいわい文庫」を活用させていただいています。伊藤忠の多角的な読書支援活動がますます発展されますよう、心より祈っています。

藤本朝巳 プロフィール

青山学院大学卒。
英国アングリア・ラスキン大学客員研究員、絵本学会、JBBY理事等歴任。
『松居直と絵本づくり』(教文館)、訳書『こびととくつや』(平凡社)他多数